日本三大農業用水のひとつにも数えられる「明治用水」の取水施設で大規模な漏水事故が発生しました。
明治用水は愛知県豊田市の、その名も「水源町」に設けられた「明治用水 頭首工(とうしゅこう)」から、矢作川の水を取り入れています。
頭首工とは、取水設備の昔ながらの呼称で、明治用水の場合は矢作川に堰を作り流れを溜め、堰の横に設けた取水口から水を取り入れる仕組みになっています。
報道によると今回の事故は、何らかの理由により川底に穴が空き、堰の下流へと水が流れてしまうことで取水口よりも川の水位が低下してしまい、明治用水に取水できなくなってしまったということのようです。
川底に穴が空いた理由について有識者は「パイピング現象」によるものではないかと分析しています。
パイピング現象とは、堤防やダムなどで、地盤の脆弱な部分に浸透水が集中することで管(パイプ)のような水の通り道ができ、増水など何らかの原因によって一気に水の流れが加速して吹き出す現象のことです。
この事故で、農林水産省は全国の取水施設を緊急点検するように指示したとのことですが、本来であれば高頻度かつ定期的に取水施設の状況を点検するのが理想的です。
一方で、従来の潜水士による調査では、コストも時間もかかってしまい、また状況によっては潜水士が取水施設に吸い込まれるという危険も伴います。
最新のROV(水中ドローン)を活用することで、安全かつ低コストで調査することが可能です。
また、潜水士による調査では調査の内容や評価が個人のスキルに左右されてしまうほか、濁度・透視度によっては調査に限界が生じます。
ROVによる点検・調査では、可視光カメラのみならず音響機器など各種ソナーや赤外線カメラなどを駆使して、安定的に情報収集が可能となります。
今回の事故が発生した明治用水 頭首工は1958年に完成しています。
日本では稲作の伝来以来、農業用水をいかに安定供給するかに力を注いできました。
日本中に張り巡らされた農業用水路の総延長は約40万km、総資産額は25兆円ともいわれていますが、有史以来、先人たちが築いた利水・治水のための資産を含めると、試算不可能なほどの膨大な金額になると思われます。
明治用水の完成は1884(明治17)年で、それまで荒寥とした草野だった現在の安芸市付近では、少ない水を巡って農民同士に争いが起こるようなこともしばしばあったそうですが、明治用水によって一大穀倉地帯へと変化を遂げました。
その後、明治用水は豊田市などで工業用水としても利用され、日本の高度成長を支えてきました。
その高度成長期前後に整備されたインフラの老朽化が近年話題になっています。
特に水利関係の施設では、水面下の保守・点検が必要とされコスト負担が大きくなりがちです。
しかし、もし今回のような事故が起こると、甚大な経済的損失が発生するばかりではなく、場合によっては周辺住民の生命や財産を危険にさらすおそれもあります。
ROVを用いれば定期的な点検を高頻度に行うことができます。
取水施設など、濁度の高い状況でも音響機器を用いて堆砂の状況を確認することもできます。
莫大な損失が発生する前の定期的な点検こそが、既存インフラに対する最大の安全策になると考えます。
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